法隆寺や正倉院の文物を訪ねて
有職組紐道明(株式会社道明)の道明葵一郎さんにお話しを伺いました。
(取材 : 2018年6月29日)
 


有職組紐道明の道明葵一郎さん 

組紐の歴史、由来について
 
Q : 組紐の歴史についてお話し頂けませんか。組紐は、本来はどのような用途で使われたのでしょう。
 
道明 : うちが創業したのは江戸時代初頭なのですが、組紐の歴史というのは仏教とともに日本に伝わってきましたので、最初は仏教的な宗教儀礼などに使われました。平安時代になると貴族の装束にも使われるようになりまして、大鎧という鎧に使われるようになったのは平安の末期からですね。 
 古来から男性の組帯ですとか様々な用途に使われていましたが、やはり武士の登場とともに武具に使われるようになったという歴史がございます。
 
Q : 祭りの神輿や太鼓で紐を見かけますが、組紐の用途の一種でしょうか。
 
 そうですね。歴史的な高度な組紐が神輿の総角(あげまき)に使われたりもします。そういったものを調査に行ったこともあります。(下段に続く)
 


厳島神社に残る厳島組を基とした製品

 
Q : 多くは、注文に合わせて作られるのですか。
 
 注文で作る場合もございますし、新しく歴史的な組紐がどこかで発見されたとか、展覧会で初めて見たとか、そういう機会がありましたら、研究させて頂いて復元するために、こちらから出向く場合もございます。
 
Q : 海外に調査に行かれることもあるのですか。
 
 私の父が20年ほど前ですか、ずっと敦煌(とんこう)や西域(さいいき)などに通って色々調べていた時期もありましたが、日本の組紐に比べると原始的な力強さを持ったものがありました。
 
Q : 中国南部の少数民族なども組紐を作っていますね。国内のファッションメーカーにもスチームストレッチのような縮みの技術も見掛けますが。
 
 面白い組み台を使った組紐が作られています。うちの母も調査に行って中国の組み台を買ってきました。
 
Q : 今でも仏具に関わるものを作られているのですか。
 
 仏具の用途としてはあまり多くのご注文はありませんが、古い国宝の仏具に付随しているような組紐の復元の依頼を受けることはございます。奈良の正倉院などには組紐 や織物などの文物が残っておりまして、一番多いのが帯ですね。あとはお寺の壁に飾る幡(ばん)で すとか。これらを基に作ることもあります。
 
Q : 復元される際は、当時と同じ材料で作られるのですか。
 
 そうですね。極力、古いものと同じ糸の組成というか、染色の発色や撚り糸などを準備しまして、全く同じ組み方で再現するようにしています。
 
Q : 日本での組紐は、やはり京(京都)に由来するのでしょうか。
 
 組紐は色な用途に用いられていましたので、京に限らず全国的に作られていたようです。多分色々な地域に組紐を作る工房があったと思われますが、やはり歴史的な組紐が京都近辺に多く残っています。
 
Q : 組み方による流派はあるのでしょうか。
 
  私どもは日本全国にある全ての技術を蓄積しようと思ってやっておりますので、特定の流派はあまりとらわれておりません。(右段に続く)
 

Q : 簾(すだれ)などは京風と江戸前で異なるとのことです。組紐には、そのような違いがございますか。
 
 どうなんでしょう。デザイン的に江戸の粋がある、色柄が江戸っぽいというか、はっきりして力強いみたいなところがあったのかもしれません。 
 組紐については現在のところ、使っている組み方も東西問わず共通した組み方だと思いますし、色合いの好みもあるのではないでしょうか。京都では、大ぼかしの柔らかいぼかし染め、はんなりしたものがよく出ますし。私どももあまり江戸組紐という意識ははございませんし、あらゆる技法を試みております。
 
Q : 現在の、国内における組紐産業の状況はいかがでしょうか。
 
 大きな会社は、数社程度かと思います。
 
Q : ところで東京藝術大学に組紐の分野はあるのでしょうか。
 
 テキスタイルや織物はあると思うのですが、組紐はないですね。(下段に続く)
 


 
組紐の材料について
 
Q : 組紐は、最初期から絹が使われていたのでしょうか。
 
 日本に入ってきて残っているものは、ほとんど絹ですね。源流としましては中央アジアや中国の奥地にも残っていたりするのですが、そういった民族衣装に使われたものは、ウールなどが多いです。日本はやはり絹ですね。
 
Q : 世界各国だと木綿やウールなど材料は多様なのでしょうか。絹を用いて作っているのは日本だけでしょうか。
 
 南米の組紐ですとかアンデスですとか、おそらく素材は色々あると思いますが、  絹を用いた組紐は 中国や韓国、そして日本などで作られています。
 
Q : 組紐の材料は国内で調達されているのですか。
 
 最近は、国産の絹は少なくなりました。全流通量の0.5%ぐらいが国産の絹なのですが、そのうちの50分の1は私どもが買っている計算になります。国産と海外産の絹の使用量は、国産1に対して海外産3ぐらいの割合です。国産の製糸産業が盛んな時代は国産を使用しておりましたが、現在は国産が減少してしまいましたので、海外産と国産を併用しています。
 
Q : 今日の絹の主な生産国はどちらでしょう。
 
 ブラジルか中国あたりですね。中国も大規模にやってかなり世界中のシェアを取っていて、近年技術的な進歩もめざましいので 、結構生産システムも近代化されているようです。
 唯一の特長を上げると、国産の絹の方が白度が高いというのがあります。中国産のは少し赤みがかっています。ブラジルは、昔はヨーロッパのエルメスだとかのスカーフがブラジル産だったりしたのですが、ブラジルの生産も縮小傾向にあるという話も聞いています。
 
Q : 絹以外の化学素材も使われているのですか。
 
 安価な帯締では、ポリエステルなどもあるのではないかと思います。(次ページに続く)

 
 

有職組紐道明の道明葵一郎さん